金属加工の歴史の中で、鋳物は数千年にわたり人々の生活や産業を支えてきました。自動車や建設機械、インフラ部品など、私たちの暮らしの根幹に欠かせない存在です。
しかし近年、環境問題やエネルギーコストの高騰を背景に、鋳物業界にも「持続可能性(サステナビリティ)」が強く求められるようになっています。そこで注目されているのが、最新技術を活用した省エネ・リサイクル・CO₂削減への取り組みです。
この記事では、鋳物業界の最新技術とサステナブルな未来について解説します✨
鋳物産業に迫る課題

鋳物は、社会のあらゆる場面で使われています。
しかし、その製造工程にはさまざまな課題があります。とくに注目すべきは、エネルギー問題・環境問題・経営課題です。
・高エネルギー消費型産業という現実
鋳物づくりの要は「金属を溶かす工程」です。大洋産業で使用している電気炉も、鉄を溶かす際には約1500℃という高温が必要となり、その過程で膨大な電力や燃料を消費します。1500℃付近をキープするための保持電力を流し続けることもあり、社内の電気使用量の約7割ほどが電気炉の電力です。結果として、鋳物産業はエネルギー多消費型産業と位置づけられ、エネルギー価格の変動に大きく左右されるリスクを抱えています。
・CO₂排出削減への国際的なプレッシャー
近年は「脱炭素社会」への流れが世界規模で加速しており、CO₂排出量の多い産業ほど規制や社会的責任を強く問われています。
鋳造工場では溶解炉や生産設備からのCO₂排出が避けられないため、環境対応は課題となっています。欧州を中心に、製造業にはカーボンニュートラル達成を求める動きが進んでおり、日本の鋳物産業も早急な対応が求められています。
・人手不足やコスト増大といった経営課題
さらに深刻なのが「人材不足」です。鋳物づくりは高い技術と経験を必要とする仕事ですが、若い世代の就業希望者が減少し、熟練技能者の高齢化が進んでいます。
そこに原材料費やエネルギーコストの高騰が加わり、経営を圧迫する要因となっています。これらの課題をどう解決するかが、鋳物産業の将来を左右するカギとなります。
最新技術が変える鋳物づくり

厳しい課題に直面する鋳物産業ですが、同時に大きな転換点を迎えています。
近年は、省エネ設備やデジタル技術、新しい製造方法の導入が進み、課題解決への道が拓かれつつあります。
・省エネルギー溶解炉の進化
従来の溶解炉やガス炉に加え、電気炉や高効率ガス炉の導入が進んでいます。これにより、従来にくらべ大幅なエネルギー削減が可能となり、CO₂排出量の低減にも繋がっています。とくに電気炉は再生可能エネルギーと組み合わせることで、脱炭素型ものづくりへの実現性を高めています。
大洋産業で使用している電気炉も省エネ化を可能としたものに更新しています✨
※金属を溶かす溶解炉の仕組みとは?大洋産業の高周波誘導路を解説!
・AI、IoTによる品質管理
これまで熟練工の経験に頼ってきた鋳造現場ですが、いまではAIやIoTセンサーを活用することで、温度管理や鋳型内部の状態をリアルタイムに監視できるようになりました。製品欠陥の予兆を早期に検知することで、温度管理や鋳型内部の状態をリアルタイムに監視できるようになりました。
製品欠陥の予兆を早期に検知することで不具合品の削減や、品質のバラツキを抑え安定生産が実現されています。これは人材不足の解決策としても期待されている技術の一つです。
・3Dプリンティング砂型鋳造
近年急速に注目されているのが、3Dプリンティングによる砂型鋳造です。
鋳物製造では、木型や金型を使用して砂を転写し鋳型を作る必要がありますが、3Dプリンターを使えばデータから直接砂型を造型する事も可能となります。
試作品や小ロット生産のリードタイムを大幅に短縮でき、金型のコスト削減や柔軟な設計変更にも対応できます。また、これにより、従来では難しかった複雑形状の製品も作りやすくなりました。
サステナブルへの取り組み

鋳物産業の課題を乗り越えるには、単なる効率化ではなく「環境に配慮した持続可能なものづくり」が欠かせません。すでに多くの現場では、リサイクルやエネルギー再利用といったサステナブルな取り組みが進められています。
・廃砂リサイクルの推進
鋳造工程で使用する「鋳物砂(※)」は、製造後に廃砂が大量に発生します。大洋産業が使用している生砂は基本的には繰り返し使えますが、レジンやフラン等でコーティングされた中子砂や自硬性鋳型の砂は再生処理を行う必要があります。
従来は産業廃棄物として処理される事も多かったですが、近年では再生処理を施し、再び鋳造工程に戻すリサイクル技術が普及しています。さらに、建設資材や道路舗装材など、異業種での活用も広がりつつあり、廃棄物削減と資源循環の両立が実現しています。
※鋳造に欠かせない「鋳物砂」とは?~種類とその特性を解説~
・金属リサイクル率の向上
鋳造の強みのひとつは、スクラップ金属を再利用できる点です。鉄やアルミなどを繰り返し溶かして使えるため、資源を無駄にせず循環型社会に貢献しています。
今後は、より効率的にスクラップを回収・選別し、高品質な鋳物へ生まれ変わらせる仕組みづくりも期待されています。
・エネルギーの再利用
前文でもあるように、鋳造工程では高温処理が必要となるため、溶解炉から大量の排熱が発生します。これをただ大気に放出するのではなく、排熱回収システムによって再利用する取り組みが進んでいます。
例えば、工場内での暖房や乾燥工程に利用したり、地域の熱供給システムと連携したりと、エネルギー効率を高める工夫が始まっています。
海外の先進事例

サステナブルな鋳物産業の実現に向け、世界各地で革新的な取り組みが行われています。
特にヨーロッパやアジアでは、環境規制や競争力強化を背景に、最新技術と省エネを組み合わせた事例が次々と登場しています。
・ヨーロッパ→カーボンニュートラル工場への挑戦
環境規制が厳しいヨーロッパでは、鋳造工場のカーボンニュートラル化が加速しています。例えば、ドイツやスウェーデンでは、再生可能エネルギー由来の電力(※)を使用した電気炉や、二酸化炭素排出量を見える化する管理システムを導入しています。環境配慮型の工場をアピールすることで、取引先からの信頼を獲得しています。
※再生可能エネルギー由来の電力・・・太陽光、風力、地熱、水力など自然の力で繰り返し補充されるエネルギー資源から発電された電力。
・アジア→デジタル技術と効率化の両立
中国や韓国では、鋳造プロセスにAIやIoTを組み合わせた「スマート鋳造工場」が台頭しています。
サーモグラフで砂型の温度を測り必要な注水量を予測してくれたり、目標成分値を設定すると、電気炉へ必要材料を自動投入してくれるなど、生産データをリアルタイムに収集・分析することで、品質向上と省エネを同時に実現しています。
また、人材不足に対応するるため、ロボットを使った自動化も急速に広がっています。これにより、低コストかつ高品質な製品供給体制を築き、グローバル市場での競争力を高めています。
・日本→改善活動と最新設備の融合
日本の鋳物産業は、現場の「改善活動」と新技術導入を組み合わせる独自のアプローチをとっています。熟練工の経験をデジタル化し、AIによる品質管理へ反映させたり、省エネルギー型の溶解炉を段階的に導入したり、着実に持続可能性を追求しています。
また、廃砂リサイクルや排熱利用といった取り組みも全国で広がり、地域と共存する循環型産業としての役割を強めています。
これからの鋳物産業の未来
鋳物は、古代から現代まで人々の暮らしを支えてきた基盤産業です。
今、その鋳物づくりは「エネルギー問題」「CO₂排出」「人材不足」といった課題に直面しています。しかし同時に、省エネルギー炉やAIによる品質管理、3Dプリンティングといった最新技術の進化が、こうした壁を乗り越える大きな力となりつつあります。
さらに、廃砂や金属資源のリサイクル、排熱の再利用といったサステナブルな取り組みは、環境にやさしいものづくりを実現するだけでなく、企業価値の向上や地域社会との共生にも繋がっています。
これからの鋳物産業は、単なる製造業にとどまらず、循環型社会を支える存在としての役割を強めていくでしょう。そして、若い世代が誇りを持って関われる「次世代のものづくり」として、新たな価値を創造していくはずです。
サステナブルと技術革新を両立することで、鋳物産業はこれからも未来の社会を力強く支えていきます。