近年、EV(電気自動車)の普及が進む中、自動車の製造方法そのものが大きく変わろうとしています。その中心にあるのが「ギガキャスト(Giga Casting)」と呼ばれる新しい鋳造技術です。
ギガキャストとは「ギガ=巨大」「キャスト=鋳造」を組み合わせた言葉で、超大型ダイカストマシン(※)で大型部品を一度に成形する技術のことです。
従来の自動車製造では、ボディの骨格部分は何十点もの部品をプレス加工し、それぞれを溶接して組み立てていました。しかしギガキャストでは、それらを「ひとつの巨大なアルミ鋳造部品」として一体成形することが可能です。
この革新的な技術を世界でいち早く導入し注目を集めたのが、アメリカのEVメーカーであるテスラ(Tesla)です。
本記事では、ギガキャストの技術について解説します。
※鋳型・製法による分類~金型鋳造法について~
ギガキャストの仕組みとは?

ギガキャストは、超大型のダイカストマシンを使用します。
基本原理は一般的なダイカストと同じですが、設備の大きさは長さが20m近く、重量400トンを超えるほどとまさに桁違いです。
巨大な金型を強力な圧力で閉じ、その中に溶かしたアルミニウム合金を一気に流し込み、短時間で成形を完了させます。
従来のダイカストでは、エンジン部品やトランスミッションケースなどの小型構造部品を成形しますが、ギガキャストでは車体骨格そのものを成形する点が大きな違いです。
小型部品の場合、溶かした金属の流動距離は比較的短く、温度管理もしやすいという特徴があります。しかし、巨大部品を一度に成形するギガキャストでは、次のような高度な技術が求められます。
・金属が途中で冷えて固まらないようにする
・内部欠陥(巣や気泡)を抑える
・ひずみや変形を最小限に抑える
・薄肉部と厚肉部が混在する構造を均一に充填する
サイズが大きくなるほど、金属の流れや凝固挙動の制御は格段に難しくなります。
つまりギガキャストは単に「大型化した」だけでなく、材料設計・金型設計・鋳造CAE解析など、総合的な技術進化の上に成り立っているのです。
なぜEVでギガキャストが必要なのか?

EVの普及が世界的に進む中、自動車メーカーは「車両重量」と「生産効率」という2つの大きな課題に直面しています。
●EV最大の課題は「重さ」
EVは走行中にCO₂を排出しない環境性能の高さが魅力ですが、その一方で車両重量が重くなりやすいという構造的な課題があります。車両重量の大きな割合をバッテリーパックが占めるためです。車体が重くなると、
・航続距離が短くなる
・エネルギー効率が悪化する
・加速性能に影響する
・足回り部品の負担が増える
といったデメリットが生じます。
そのためEVでは、バッテリーの進化と並行して「車体の軽量化」が強く求められています。ギガキャストはアルミニウム合金による大型一体成形によって、構造最適化と軽量化を同時に実現できる技術です。
●部品点数削減がもたらす構造最適化
従来の車体製造では、多数のプレス部品を溶接して骨格を形成していました。後部構造だけでも数十点の部品を組み合わせるケースは珍しくありません。
それを1つ、または2つの大型鋳造部品として集約することで部品点数が減り、
・溶接個所が減少する
・接合部の強度ばらつきが抑えられる
・構造がシンプルになる
・設計自由度が高まる
といったメリットが生まれます。
溶接部はどうしても強度的な弱点やゆがみの発生源になります。一体成形にすることで応力の流れを最適化でき、結果として高剛性と軽量化を両立しやすくなります。
●生産効率の劇的な向上
EV市場では価格競争も激化しており、車両コストの削減が重要なテーマとなっています。特にバッテリーコストが高い現状では、車体製造コストの圧縮が競争力を左右します。
ギガキャストでは、部品点数・溶接工程・搬送工程の削減、さらには組立ラインの短縮が可能となり、製造工程そのものを大幅に簡素化できます。
メリットだけではない?課題とリスク

ギガキャストはEV時代を象徴する革新的な技術ですが、もちろんメリットだけではありません。
●金型コストが非常に高い
最大のハードルのひとつが、金型および設備投資の規模です。通常のダイカスト金型と比較して、サイズも重量も桁違いです。その結果、
・金型製作費が高額になる
・製作期間が長期化する
・メンテナンスコストも増大する
といった課題が生じます。
さらに、設計変更が発生した場合の影響も大きく、開発初期段階での設計精度が極めて重要になります。
●不良発生時のリスクが大きい
鋳造では内部欠陥などの不具合品(※)を完全にゼロにすることは困難です。
従来の小型部品であれば損失は限定的ですが、ギガキャストでは
・不良=巨大部品を丸ごと廃棄
・材料ロスが大きい
・生産ライン停止の影響が大きい
というリスクがあります。
巨大化するほど、溶かした金属の流動制御や温度管理は難しくなり、品質保証体制の高度化が不可欠です。
※鋳物製品で発生する鋳造欠陥とは?~種類・原因・対策を解説~
●修理性の課題
一体構造は強度や工程削減に貢献しますが、修理面では課題もあります。
例えば事故をした場合、従来は損傷部分のみを交換することも可能ですが、一体鋳造構造では、
・部分交換が難しい
・修理範囲が広がる可能性
・修理コストが高額になる懸念
といった問題が指摘されています。
今後は修理技術や修正部品供給体制の設備も重要なテーマになるでしょう。
ギガキャストはEV時代の鍵となる技術
ギガキャストは、超大型ダイカストマシンを用いて車体構造部品を一体成形する革新的な鋳造技術です。
多くの部品を組み立てていた従来構造を大型アルミ鋳造品へ統合することで、軽量化や工程削減、生産効率向上を実現します。テスラをはじめ、日本ではトヨタ自動車も採用を進めるなど、EV時代の製造モデルとして注目されています。
もちろんリスクや課題もありますが、ギガキャストは単なる鋳造技術の進化ではなく、「組み立てる」から「一体でつくる」という発想転換を象徴する技術です。
EV市場の拡大とともに、その重要性は今後もさらに高まっていくでしょう。
次回の記事もお楽しみに✨




